【夏祭り通信2009 Vol.03】だいきちさんとじゅんのすけさんの思い出
こんにちは。これから夏祭り企画が実施されるまで、不定期に掲載させていただきます。
今回は、これまでの夏祭り企画で優勝をした、だいきちさん(2005年度、『抜けない針』で優勝 ※高得点作品掲載所、短編部門)、それから、じゅんのすけさん(2006年度、『嵐のち晴れ、ときどきアンドレ』で優勝 ※高得点作品掲載所、中編部門)に、それぞれ当時の思い出を伺いました(※『夏祭り通信2008』より転載)。
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【だいきちさん:『夏祭り企画でいただいたもの』】
作品のアイディアを練っていて、練りきれていないのに「まあこんなもんでいいや」と書き出そうとしたり、いったん書き上げると早く人に見せたくて、推敲が充分でないのに「ま、いっか」と投稿しようとしたりすることがある。
そんなとき決まって私の前に金太郎が現れる。そして馬鹿にするような口調で言うのだ。
「お前、その程度で俺に勝てるつもりか?」
そんな言われ方をされてそのまま先へは進めない。私は顔を真っ赤にしながら再度アイディアを練り直したり、推敲し直したりすることになる。
金太郎との出会いは三年前の夏祭り企画。
奴の登場する「金太郎の打ち上げ花火」を読んで、私は「やられた!」と思った。
面白いのだ。粋なアイディア、軽快な語り口がユーモラスな雰囲気を演出し、人情味あふれるストーリーは秀逸だった。これは自分には書けない、そう思った。それがくやしくてたまらなかった。
作者のほうきんさんはとても気さくで社交的な方だった。私たちは互いのサイトに訪れるようになり、相互リンクもさせていただいた。私のサイトのバナーもつくっていただいた(ちなみに絵を描いていただいたのは巴々佐奈さんである。なんとも豪華な顔ぶれによるバナーとなった)。
ほうきんさんとの友好的なお付き合いとは対照的に、金太郎は私の前に現れ挑発を続けた。現れるのは金太郎だけではない。他にもしゃべる冷蔵庫やちょっと浮いた女子高生など多士済々ではあったが、やはり同じ題材、同じ場所で競い合った奴の存在感は大きかった。
負けたくない、と思う。
奴らを黙らせる方法はただ一つ、いい作品を書くこと。少なくともその時点の自分ができる精一杯のものを。
点数とか順位などは一過性のものでしかない。それより作品で語られたもの、見せ付けられたものはずっと残ってなかなか消えない。そういう作品を書くにはどうしたらいいのかいつも悩む。たいしたことはできないが、「ま、いっか」を一つでも減らすようにしている。その積み重ねが私の作品を成長させてくれているのだと思う。
長く険しい執筆の道のりを歩き続けていられるのは、金太郎がそこにいて、ほうきんさんがまだ書き続けているからだ。そういう存在は何よりの宝であるし、そういう出会いをくれたあの夏の企画には大変感謝している。
どうもありがとうございます。そして……次を見てろよ!
というわけで、夏祭り企画の開催にあたりご依頼をいただきましたので、僭越ながら上の通り拙文を書かせていただきました。
皆様にもそれぞれの金太郎との幸福な出会いがあることをお祈りし、開催への祝辞と参加者様への激励に代えさせていただきたいと思います。頑張ってください。
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【じゅんのすけさん:『夏祭り企画のエピソード』】
今にして思えば、僕は壁にぶち当たっていたんだなぁ、と。その壁を乗り越えた先にも、もっともっと分厚くて高い壁があって、それを越えられずに今も四苦八苦している、というわけなんですけどね。
まあ、今直面している壁は置いておいて。
人にちょっと褒められていい気になって、自信をつけて、傑作と思って新人賞に送った作品が立て続けに一次選考で落ちたりしていた――当時の僕。
そんなことがあったので、新しく取り組んだ作品が駄作に思えて仕方なくなって執筆中断する始末。執筆を途中で諦めたのは何年ぶりですかねぇ。
という具合に、あまりいい時期じゃありませんでした。
ていうか、もうはっきりと燻ってました。
仕方なく別の長編を書き始めていたんですけど、これも駄作かもしれないし、ちゃんと完結させられるかわからないし、と不安でしたねぇ。
夏企画の話が立ち上がったのは、そんな折ですね。
よっしゃー! 祭りだ! なんて盛り上がりはそんなになくて、でも地味~にやる気出してました。
自信喪失気味で、地に足のついてない作品を書いてしまっていたから、これはちょうどいい機会だと思ったんですね。短編を書く時間くらいはありましたし。
書くもの見失ってるなら、自分の好きなものを書くっきゃないじゃないですか。僕の好きなものは「燃え(萌えじゃないですよ)」なんだぜっ。だからそれを書くんだぜっ。と、割り切って勢い任せで書くことに決定したわけです。
しかしなんですね、自信喪失してるくせに妙に前向きでしたね、在りし日の僕。
企画のお題は「幽霊」でした。
最初はお題を捻ったり、ジャンルを工夫したり……なんてことも考えましたけどね、結局すぐ却下。
幽霊という単語から連想する切なげなストーリーもあっさり排除。
燃えが好き。だからそれを書く。計算も何もなくただそれだけで、話を考えました。
お題そのまま、主人公は幽霊。燃えを書きたいから題材はスポーツ。あとは登場人物たちを熱血させてやれば僕個人が好きな物語のできあがり、のはず。
そして書き始めると、筆が進む進む。
遅筆は僕の最大の悩みの一つなんですけどね、そのときは新記録が出ましたよ。
一日十枚書ければ上出来な僕が、一日で三十六枚も書いたんですから。
おかげで、スタートから二日目にして脱稿でした。この執筆速度は、以降さっぱり再現できません。ああ、あのころのスピードをもう一度味わいたい……。
とにかく、そんなこんなでできあがったのが「嵐のち晴れ、ときどきアンドレ」でした。
……なんだこのタイトル……。
どの辺が幽霊で、どこがスポーツなのか、さっぱりわかりません。
ただ、僕が優勝できたのは、このへんてこなタイトルのおかげであることは間違いないでしょう。
意味不明なタイトルのおかげで、読者が思いの外集まりました。結果、地道に得点を重ねることになり、運良く優勝ができたというわけです。
ちなみに、平均点で言えば、僕の作品よりも青々さんの作品の方が上でした。実際、とても面白い小説でしたよ。現在は高得点作品掲載所から削除されているのが残念ですね。
それから、たくさんの感想をいただいたために、後々感想をお返しするのに苦労しましたが、今となってはそれも良い思い出です。
お返し感想は義務ではありませんが、極力実行するのが僕としてはおすすめです。
作品を書き始めてから夏企画が終了するまでのおよそ一ヶ月間、かなり密度の高い創作月間だったと思います。
自分の好きなものを書き、それをある程度認めていただき、いろいろな人の作品を読んで勉強させてもらったイベントでした。
その後、執筆中の長編に復帰し、それも無事に完結させることができました。
夏企画に参加することで、少しは地に足をつけて執筆できるようになったかな、と思います。
イベントから得るものは人それぞれでしょうけど、作品を書くことも、他人の作品を読むことも感想を書くことも、すべて有意義なこととしてとらえることができたらいいですね。もちろん、いろいろな人から感想をいただくことも。
身になることがいっぱいですから、ぜひみなさん、夏企画に参加してみてはいかがでしょうか?
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【昨年の夏祭りを担当されたmayaさんからのコメント】
昨年、だいきちさんには、「三年前のあの夏――ほうきんさんと戦い、熱い友情を培ったエピソード」というテーマで原稿をお願いしました。上記の中にも出てきましたが、ほうきんさんの『金太郎の打ち上げ花火』も同じく高得点を取り、高得点作品掲載所の短編部門にあります。よろしければ、ご覧ください。
また、じゅんのすけさんには、「熱く、濃く、それでいて喉越しさわやかで、ふと涙さえこぼしそうになる超絶エピソード」をお願いしました。無茶ぶりしすぎですw しかし、皆さんも、じゅんのすけさんの持つ葛藤によく共感できるのではないでしょうか。
次回も、『夏祭り通信2008年度版』より、これまでの夏祭り企画で主催を務めてきた、kuroさん、遊弟さんの原稿を転載いたします。
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